非正規雇用雑感

精緻な議論は専門家に任せて、自分のような素人は大雑把な議論をとりあえず語っておくことにしよう。
当たり前のことだが、景気には波がある。好況と不況は交互にやってくるものであり、企業は不況になると、有期契約・低賃金のいわゆる非正規労働者を解雇して身軽になろうとする。好況になれば再び非正規労働者を雇用して労働力の需要を満たす。非正規雇用は柔軟な労働力バッファとして、企業には重宝される存在だった。
昭和30年代になって高度成長期が到来し、それまで「臨時工」と呼ばれていた多くの非正規労働者は、正規雇用として直接に採用されることが多くなっていった。とは言っても、各企業は業績の推移にしたがって増減できる柔軟な労働力をやはり求めていた。ここで労働市場において臨時工に代わって拡大したのが、アルバイト学生とパートタイム主婦である。
正規雇用と非正規雇用の待遇格差は、戦前・戦中も戦後も同じように存在していた。しかし、戦前の常用工と臨時工の待遇格差は社会問題として制度的解決を図る動きが現れたが、学生アルバイトや主婦パートについては社会問題とならなかった。なぜか?バイトもパートもともに労働力としては非正規で周縁的存在だったが、「学生」や「主婦」はそれぞれに社会の中で中心的存在となる属性だったからだ。アルバイト学生はアルバイターである前にまず学生であり、パートタイム主婦はパートタイマーである前に主婦である。したがって、非正規労働者というラベルよりも、学生とか主婦というラベルの社会階層として認識されたのだろう。
今般の不況の中で、多くの若者が、高校や大学卒業後に正規雇用を得ることなく労働市場に出ることとなった。われわれ若い世代のフリーター化は、他に選択肢がない以上どうしようもない進路であったと思っているが、若年フリーターがいずれ高齢化して中年フリーターになると、低収入のまま社会保障の大きな負担となりかねない層ができてしまうわけで、政策論的にも大きな問題である。
日本ではスキルアップ機会の多くを企業内のトレーニングが占める。ということは、非正規労働者は能力開発のトレーニングから排除されることになるから、いつまでたっても職業キャリアの本流には戻れないわけだ。こういった構造を放置していては、もちろんたやすく再チャレンジとはいかないし、リスクを取って正規雇用から離脱することにみな躊躇するだろう。むしろ正規雇用にしがみつこうとして、ジョーカーを他人に押しつけたがるようになるのではないか。
パートタイム主婦についても触れておく。パートタイマーの収入が、あくまで家計を補助的に支える役割にあったのなら、正規雇用者との待遇格差はさして問題にならない。だが不況の中で、夫が失業したり離婚によってシングルマザーになった場合、パート労働者の低収入はそのまま、フリーターと同様に将来の負担要因として跳ね返ってくる可能性がある。ここでも、能力開発機会から排除されたパート労働者が、そのまま低収入の階層として固定化する可能性を容易に想像できるだろう。

80 名前:名無しさん@八周年[] 投稿日:2007/12/21(金) 22:32:52 id:WdUviuAj0
おまえらそうやってボコボコ叩けばいいってもんじゃないぞ。
15歳の子供を持つ親ってことは少なくとも40は超えてる。
40っていったらバイトでも仕事が制限されてくる年齢だぜ?
生活保護受給者を叩くんじゃなくて最低賃金を上げない国を叩くべきだろ
痛いニュース(ノ∀`) : 【生活保護】 「減額されたら娘の習字をあきらめなければいけない」 母子加算減額は憲法違反と母親らが提訴 - ライブドアブログ

格差の問題を語ろうとすると最低賃金に触れるコメントが目につくようになった。上記コメントもその類だが、最賃を上げるというアイデアには一概に賛成できかねる。というのは、賃金の高さとは要するにその労働者に対して雇用主が期待する成果の表れであり、賃金が高まるということはそれだけの生産性を求められることだからだ。簡単にいえば、賃金の高さは就労のハードルの高さでもある。最賃は文字どおりこれ以上下げようのない賃金の額なのだから、スキルアップ機会に乏しい非正規労働者を就労させるのに、最賃を上げるという方策ははたして有効だろうか?とにかく就労させておいて、労働市場に取り込んでしまい、その上で能力開発のチャンスを増やした方が良いのではないだろうか?赤の女王ではないが、「走り続けなければ留まることもできない」という状況をこれ以上加速させることもないだろう。
いわゆるシングルマザーについては、OECDの報告書に興味深い記述があったので引用しておく。2006年7月に発表された対日審査報告書である。

2000 年には働いているひとり親の半数以上は相対的貧困状態にあったが、OECD 平均は約20%である。また、日本では無職のひとり親よりも就労中のひとり親における貧困率のほうが高い。就労に対するインセンティブを与えるため、政府は2002 年に児童扶養手当制度を改革した。ひとり親における著しい貧困が要因となり、2000 年の児童の貧困率OECD 平均を大きく上回る14%に上昇した。民間部門の負担する教育費の割合が比較的高いことを考慮すれば、貧困が将来世代に引き継がれることを防ぐため、低所得世帯の子供の質の高い教育への十分なアクセスを確保することが不可欠である。PISA 調査において明らかになった日本における学力の階層分化の進行に対処すべきである。
http://www.oecdtokyo2.org/pdf/theme_pdf/macroeconomics_pdf/20060720japansurvey.pdf

太字部分の意味がわかるだろうか。一般に欧米諸国では日本よりも福祉給付に寛大とされているが、いったん福祉給付による生活に慣れると抜け出すのは難しく、しかもそれが子供世代に受け継がれるケースがある。近年の欧米の社会保障が就労促進に傾きつつあるとされているのは、その悪循環を断ち切るためなのだが、日本では、あえて貧困を引き受けつつ働いているシングルマザーが多いということだ。就労する方が損かもしれないのに就労の道を選ぶのは、生活保護受給者に対する視線を恐れてのことか、生活保護のハードルの高さを知って諦めているのか、あるいはモラルのためか。いずれにせよ就労により貧困を脱するルートを制度的に整備しなくては、日本においてもシングルマザーに対する社会保障が大きな負担としてのしかかってくるだろう。
非正規労働者が正規労働者と別の存在であることは確かなのだが、今般の時勢を鑑みるに、いったん非正規雇用のゾーンに取り込まれるとそのまま貧困にずり落ちる道が大きくなり過ぎているのではないかと感じている。言うなれば、正規雇用セーフティネット化しているのだ。無職から就労へ、非正規から正規へのハードルは、できる限り低くあるべきではないか。労働から解放される生活がいつか訪れるとしても、少なくとも今はそうではない。非正規労働者社会的排除に追いやる現行のしくみをデザインし直さないことには、我々の営む社会はいつまでも「貧困」のそしりを免れないであろう。