ジョブとしてのシステムズライブラリアン

「システムズライブラリアン」ってなんやねん? - かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)
ブックマークコメントにも書いたのだけれど、ライブラリアンに限らず、日本の労働市場はジョブ型とは言いがたい。図書館を例に取れば、閲覧→ILL→雑誌目録→総務→レファレンス→図書目録みたいな感じで各部署をグルグルと回るところが多い(と聞いている)。もちろん小規模館ならこのサイクルは短くなるし、大規模な館で各部署がもっと細かく分かれていればサイクルは長くなるだろう。いずれにせよ、何らかのスペシャルな技能を買われて図書館に務めるというよりも、その館の一員となったから各種の業務全てを順繰りに経験しつつ職階を上るキャリアコースが大半なのではないか。こういうのはジョブ型に対してメンバーシップ型と呼ばれている。
図書館以外の一般の会社もまあ似たようなもんでしょう。まずある企業なり役所なりに入り、そのうえで入る部署が決まる。やがて時間が経てば別の部署に異動して経験を積み、その繰り返しで社内キャリアが進んでいく。何らかのスキルを売りにして雇用され、そのスキルを恃みに業界各社を渡り歩くようなキャリアコースは、まだまだ少数派。少なくとも正規雇用ではね。
日本の雇用慣行自体がそんな情勢だから、ジョブとしてのシステムズライブラリアンなんて、養成・供給は出来ても需要がないだろう、というのが当方の意見。とはいうものの、外部から見ればライブラリアン自体がジョブとして扱われている感はあるだろう。公共図書館員は自治体職員の一員であり、大学図書館員は大学職員の一員であり、国会図書館員は国会職員の一員であるが、いずれもそれぞれのメンバーシップとなる選抜段階から別の試験を受けて選考されている。まあ今は公共図書館については多少アヤシイけど、それでも結構な数の館では専門職としてライブラリアンを雇用しているわけだ。
現在の図書館文化の中では、図書館職員を別途採用しているというところまでが、衆目の認める専門性の限界であって、システムズライブラリアンにしろ別のスペシャルな技能を持ったライブラリアンにしろ、ライブラリアン内部の質的差異としか認識されず、それぞれの専門性ごとに分割・独立したジョブとして認知されるのは難しいのではないだろうか。何らかのスペシャルな技能を持ったライブラリアンをより高く評価するには、「○○ライブラリアン」なる呼称が存在し、その技能を認定する機関や制度が整っていた方が、明解だ。しかしながら需要のないところに供給はなく、そしてこの事案についてはまさしく文化の成熟度が需要を決定するものと思っているので、システムズライブラリアンというキャリアを無理やりに成立させようとしても先行きは暗かろう。あくまで現下の時勢では、という条件付だけど。
これからの図書館が電子的コンテンツと親和的であることを前提とするならば、そのコンテンツを格納する図書館システムの運用・設計に携わるジョブとして、システムズライブラリアンという職能が成立した方がおそらくは有益だ。しかしながらそれは、電子的コンテンツに親和的なユーザーが多数を占めなくては、職能を成立させることに合意が生まれない。繰り返すが、需要なくして供給はないのだ。特に我々のような公共性の高いセクターでは、今やニーズのないところにリソースを消費することへの風当たりは私企業以上に強い。図書館ユーザー間にシステムズライブラリアンというジョブが成立する意義を説くこと、少なくとも設置者にそのメリットを感じさせることなしには、システムズライブラリアンも「俺達の戦いはこれからだ!」てな少年ジャンプ的エンドを辿るだろう。というわけで結論。システムズライブラリアンを成立させるためには、「立てよ、国民!!」と叫ぶべきである。