二重の諦観

TBSのクイズ番組で、戊辰戦争時に会津若松城が開城した理由を「糞尿がたまったから」と解答を設定し、会津若松市が憤激した件について。TBSのプロデューサーが会津若松市役所を訪れて謝罪したとのこと。

TBSの歴史クイズ番組で戊辰戦争にまつわるクイズの正解が「史実と異なる」として、福島県会津若松市が訂正を求めた問題で、同社のプロデューサー2人が31日、市役所を訪れて菅家一郎市長に謝罪した。だが単発番組のため訂正放送はできないとの回答に、菅家市長は「市民の理解が得られない。バラエティー番組だからと言って『ならぬものはならぬ』だ」と述べ、再検討を求めた。
番組は2月16日放送の「歴史王グランプリ2008まさか!の日本史雑学クイズ100連発!」。旧幕府側が会津若松城を明け渡した理由について「糞尿(ふんにょう)が城にたまり、不衛生だったから」が正解とされた。TBS側は情報制作局長名の文書で、開城は複合的な原因だと認識していたがバラエティー番組の性質から「糞尿……」を正解としたとし、「会津若松の方々を不快な思いにさせることは本意でなく、深くおわびする」としている。TBS広報部は「ご理解が得られず残念。今後とも話し合いを続けたい」と話している。
http://www.asahi.com/national/update/0331/TKY200803310338.html

まず、歴史的事象というものは単独で成立するものではなく、その事象に至る背景や要因があり、また後世に及ぼした影響や機運をも併せて思考の射程におさめることを、当然に求められるものである。ゆえに、かつて歴史学徒であった自分としては、体系的な知識の連関に思いを致さずトリビア的なネタに分解してしまうような振る舞いは、激しく不快なものである。しかし一方で、歴史がいかに玄妙かつ深遠で奥深いものであろうとも、さしたる関心の無い一般大衆にそのような態度を求めようもないことは事実であり、面白おかしく消費されてしまう光景をもはや見慣れてしまったので、口角泡を飛ばして批判を行うほどの気力を自分は持てなかった。この件について厳しい態度を示した方々は率直に偉いなと思う。
ついでにクイズ屋として思うところを述べておくと、そもそもテレビのクイズ番組で視聴率を取ろうとすると、どうしても面白おかしいポイントを狙って笑いを取りに行かざるを得ない面がある。浅薄といえば浅薄だが、セメントマッチへのニーズは少数派であり、クイズの真剣勝負をエンターテイメントに仕上げるのは制作側に高度な力量が要求されるものだ。ゆえにクイズ屋としても、まあはっきり言えば諦念を抱いている。クイズが知的格闘技として市民権を得ることは、おそらくないだろう。
というわけで、この項さしたる結論なし。面白くわかりやすいものに人は流れるものだし、流されるなと叫んでも無為に響くばかり。ただ自分が踏みとどまる姿を示し、その意を綴るのみである。
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