初出社の日、机にはホッチキスがあった。

以前の職場で、短い期間だが総務担当セクションにいたことがある。
総務と言っても要は何でも屋で、経理から法務、広報までそのセクションに任されていた。小さい職場だから各セクションの構成員は数人だけ。職務権限上、僕のような下っ端のスタッフは関われる範囲が少なく、担当の係長A氏はしょっちゅう深夜まで仕事をしていた。内部監査のための提出書類とか、地元の新聞に送る原稿のチェックとか、同業他社からの問い合わせの返信とか、定期入れ替えの業務用PCのリース見積もりとか。いつも書類と格闘していた。
もちろんその職場の業務量と人員バランスはおかしかったと思うけれど、もともと職場全体の人数が小さいし、サービス関連セクションですら人員漸減傾向の中で、必然的に総務セクションにまわされる業務は多種多様になっていった。事務管理に瑕疵があることはわかっていても、それをきちんと手直し・再配置するだけの余裕が職場になかった。僕が別セクションに移ってから後任が来るまで数ヶ月だけタイムラグがあったが、A氏が珍しく休んだときはたいてい、僕が総務の席に呼ばれて仕事をしていた。内外からの問い合わせや懇意の業者との契約の調整が頻繁なので、片手間と言えども総務経験者が在席していないと、すばやく対応することができないのである。

電気は流れているのが当たり前、水道は蛇口を捻れば流れ出すのが当たり前、電車は定刻通りに動いているのが当たり前であって、止まればそれは「異常事態」なのが日本と言う社会な訳だが、実際の所インフラをインフラとして運用するだけでも、コストはかかるし腕も要る。
「問題がない状態」=「普通の状態」って判断されることが、システムの悲劇の様な気がしたあの日。: 不倒城

会社や役所だって遅滞なくまわっているのが普通だろうが、天井の蛍光灯が取りかえられるのも、トイレがきちんと清掃されるのも、僕の引き出しにホッチキスがあるのも、総務担当者が仕事をまっとうしているおかげである。上記エントリを読んで、インフラのみならず、後方支援にあたる人々みんなに、あらためて感謝の意を強くした。どうもありがとう。