衣食足りて…

ある特別養護老人ホームで働く女性ヘルパー(38)の話を聞いた帰り際、「読んでほしい」と小さく折りたたんだ紙を渡された。
「看護師さん、あなたはいったい何を見ているの」で始まる英国の老婦人の詩だった。看護師の前で食べ物をぼたぼた落として大声で注意される「自分」にも、平凡ながらも夫と子どもに恵まれ「愛することのできる人生」があると訴え、「もっとよく心を寄せて、私の心を見てください」と結んであった。
書かれた時期も分からないが、老婦人が病院で亡くなった後に遺品から見つかったという。ヘルパー研修で講師から教えられ、コピーを持ち歩き、時に読み返してきた。しかし、日常は20人前後のお年寄りを、2、3人のヘルパーで「トイレ」「食事」と機械的に誘導するだけ。会話する余裕すらない。収入は月12万円程度。体はぼろぼろ、介護の心もなえそうだという。
これでは「もっと見て」と訴えるお年寄りの心が見えるはずもない。彼女の無念さが痛いほどに伝わってきた。
http://mainichi.jp/select/opinion/yuraku/news/20080105k0000e070060000c.html

別に介護労働に限ったことじゃありませんが、収入や待遇、労働環境が著しく不十分な状態では、各人が十全に能力を発揮することなど出来っこないでしょう。全力でのパフォーマンスがしょうもないのであればそれはその人が不向きだったのでしょうが、不遇の環境を放置しておいて「自分で選んだ仕事だからしっかりやれ」とは、さすがに無理筋ですよね。前に書いた文章を引用しておきます。

事業予算規模が十分に確保されてはじめて他業種と人材の取り合いもできるわけで、スタッフが全力を尽くしてなお労働環境が違法状態というのであれば、そこに構築されている制度体系そのものに瑕疵があるのだろう。「医療崩壊」問題はだんだんと知られるようになってきたが、「介護崩壊」もこういう告発によってもっと可視化された方がいいんではあるまいか。そして、制度体系内部の歪みがリペアされても労働環境が改善されないのなら、介護制度への政府の現行のコミットメントに過誤がある、ということになろう。
告発者に苛立つよりも - The best is yet to be.