「削除(笑)」とでも嗤われてしまえ

ライブラリアンとしての意見は他の図書館系ブロガーが書いてくれると思いますが。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008011301000203.html
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/shimane/news/20080113-OYT8T00386.htm
以前にも述べたけれど、僕はこれでも歴史学徒のはしくれだったので、地方自治体が「焚書」を求めた事実については、ちょっと敏感にならざるを得ない。もちろん、知的リソースへのアクセスが遮断されることの危険性は歴史学および人文科学に限ったことではない。けれども、さまざまな史料が描き出す個々の歴史記述を重ね合わせたところに歴史像は構築されるというこの営みの性質を考えると、「史料の除却」というのは大変な蛮行だ。敢えてわかりやすく言うなら、「歴史史料に代替物は存在しない」からである。
まあことが人権侵害事案なので、自治体側が敏感になる事情もわからないではない。この御時勢に公共機関が差別に加担しているなどというイメージを抱かれたら、日本中からフルボッコであろう。しかし、仮にその史料が閲覧者をすぐさま差別助長に走らせるようなトンデモなパワーを秘めていたとしても、許されるのはせいぜい一定期間の閲覧の制限もしくは所蔵の秘匿くらいである。差別的表現が含まれていたとしても、そういう表現が用いられた、そういう文章が書かれた、そういう本が出版された、という事実がまさしく歴史的文脈の一部なのであって、その時代がどのような時代であったかを後世の人間が復元する重要な手掛かりなのだ。
実際論としても、40年も前に出版された郷土史の地名なぞ、「該当部分に被差別地区の地名などが記載されている」と言われても、それが差別行為に有意な影響を与えるとは正直考えづらい。注意書を付す程度で自治体としての意思は十分に示されていると思われ、脊髄反射的に削除要請に走ったのは拙劣と言わざるを得ないでしょう。