クロ現の「出版不況」を視た

6月4日付クローズアップ現代「ランキング依存が止まらない-出版不況の裏側-」を視た。以下に感想を羅列。
番組中、書店が売りたい本を売ろうとする試みとして「本屋大賞」が紹介されていたが、あれってそういうアプローチなのか。客がランキングで本を選ぶというのなら、そこで供給側が採るべきは新しいランキングを創設することではなく、客の消費行動を変えるやり方ではないのか。実際、本屋大賞とて2位以下は注目されないと番組で語られていた。出版点数が増大しているならなおさら、上位ランキング本ではなく売れ筋の本の関連本を奨めていく方が購入される可能性が高いんじゃないの。リアルな出版物の間にトラックバックは表示されないけれど、書店員やビブリオマニアの頭の中には、おそらく本と本とのつながりが網の目のように浮かび上がっているはず。そういうつながりを消費者に明示していけるなら、書店員の職能をアピールする好機とも言えるわけだが。(関連:http://d.hatena.ne.jp/rajendra/20070818
思うに、ランキング依存とされた消費者のうち、一定数はコミュニケーションツールとして「話題の本」を消費したがったり、あるいはムダ撃ちがイヤで当たりっぽい本を選びたがったりするのだろうが、知っている評価基準が他にない、ということもあるような気がする。これだけ出版点数が増加しているのに欲しいジャンルの本が全く無いということは考えづらく、単に内容へのアクセス経路が限定されているに過ぎないのではないかな、と。良書が埋もれていくことを嘆く声を供給側からしばしば聞くけれど、消費者としては「だったらもっと紹介に力を注いでくれ」と言いたい。何かしら話題になったり宣伝された本を目にして、類似のテーマを扱っていたりモチーフになったりした本を手に取りたいと思うことは、自分にはよくある。新書や文庫では巻末にレーベル内の関連書籍を紹介していたりするけれど、書店側もより貪欲に関連書籍をプッシュしていっていいんじゃないの。少なくとも現状のリアル書店で展開されている関連書籍の紹介は、自分にはかなり物足りない。
ついでに出版不況についても一言述べておくと、単純に情報の流通経路として本が担っていた役割の大部分をweb等が肩代わりしているはずだから、市場規模が縮小するのは当たり前。また、「まちの電気屋さん」が淘汰されたのに「まちの本屋さん」が淘汰されないわけはなく、小さい小売りが生き残る術はかなり限定されていると思う。じゃあジュンク堂紀伊国屋などの大規模な書店がどう生き残っていくかというと、書店員でもない自分にはいまいち読めない。ていうか問題は小売じゃなくてむしろ取次じゃないかという気がするのだけど、この辺に突っ込むと再販制や委託販売に触れないわけにはいかないので、ここらで筆を止めておくか。ともかくランキング依存は単に消費行動の問題であって、出版業界の構造的瑕疵に比べたら小さなものだと思う。
関連:

(追記)
上の「本と本とのつながり」の箇所から、連想検索技術のことを思い浮かべた方もいるかと思う。先回りして言っておくと、それはあんまり面白くない気がする。どれほど優秀な検索エンジン、どれほど人間に近いアルゴリズムを作り上げたとしても、結局その本を読んだわけではない。思うに、実際に人間がその本を読んでいたり書評や周辺議論をチェックしているということ、言い換えれば人間というフィルターを通すことで面白さは説得力を帯びるものであり、その点においてまだまだ機械知性は人間に及ばない*1んじゃないかと自分は考えている。

*1:おれのidにツッコまないように。