教育基本法第8条制定に関する議論

第八条 (政治教育)  良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない。
○2  法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。

法文は上のとおり。昭和22年3月14日、第92回帝国議会衆議院教育基本法案委員会での議論を以下に抜粋する。

○永井委員 お話を伺えば伺うほど心細くなつてきて、問題にならないと思うのでありまして、かけ聲だけでなしに、眞にこれらの事柄が現在の日本の實情に照らして、社會教育の振興は特に強調し急速にこれを實現していかなければならない状況にありますので、一段の御奮鬪、御奮發を願います。また豫算がなければないように、その豫算をいかに效果的に運營していくかという點についても、御一考を煩わしたいと存じます。ただ形式的だけの官制はいけないのでありまして、圖書館のごときも、圖書館の形をつくつてくだらない本を列べて、圖書館がいくつできたというような、數字的な統計だけで社會教育が振興したというように思つたらいけないのでありまして、建物はなくても、眞に青少年一般に讀書されるような、利用されるような圖書を用意することが必要でありましようから、豫算がないならばないように、その運營の面において十分に一つ御努力を願いたいと存ずるのであります。
 次は第八條の政治教育でありますが、ここに「良識ある公民」こういう言葉があるのであります。良識ある公民とはどういう公民であるか、これをお示し願いたいのであります。次に「特定の政黨を支持し、又はこれに反對するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。」こうあるのであります。それは學校教育の活動として、こういうことをしてはならないということはわかるわけでありますが、たとえばここに教員が政黨を支持する、あるいは學校生徒が一つの研究機關をもつ、あるいは一つの自分の政治的信念に基いて、その主張を徹底するために政治活動をするというような事柄に對して、ここにある條文とそういう實際的な行動面との限界點を正確にどういうところにおいて、どういうようにこれを區分してお考えになつていられるのか。その分野をひとつ明確にお示しを願いたいと思います。
○辻田政府委員 お答えいたします。
 まず第一に「良識ある公民」でありますが、これは教育基本法の前文では「人間」というふうな言葉を使つてございますし、第一條の目的のところでは「健康な國民」というような言葉を使つておりますが、この場合におきましては、特に政治教育に關する事項でありますので、政治的な觀點から國民をながめまして「公民」という言葉を使つたのでございます。「良識ある公民」と申しますのは、以上のようなことでございます。
 それから第二の法律に定める學校におきます政治教育その他の問題でありますが、これはただいま御指摘を受けましたように、學校自體が特定の政黨を支持し、またはこれに反體するための政治教育その他政治活動をしてはならない。こういうのでございますが、學生、あるいは生徒につきましては、年齡によつて、ある一定の年齡に達しますならば、個々において政治的活動をすることはもちろん許されておることであらうと思います。また教育者側におきましても、その教育者が國民として一つの政治的活動をなさるということは、別に止めておるわけではございません。學校全體として、こういうふうな活動をしてはならないという意味でございます。
○永井委員 そうしますと、學生、生徒なり、あるいは教職員というものが、公的な教育活動を通してしない限りにおいては、もちろん制約すべき性質ではないのでありますが、その區分というものは、そういう解釋において了解して差支えないのでありますか。これは重要なことでありますから、ひとつ明確にお願いいたします。
○辻田政府委員 さようでございます。

「図書館の形を作って本を並べて、統計上だけ揃えたのではいけない」などのくだりも、なかなか的確な指摘ではありますが。政治教育について、すでに立法過程でバランスを意識した議論が行われていることが印象に残ります。素直に読めば、学生や教育者個人が自身の信念に基づいて政治活動を行うことは、公的な教育活動に関係しない限りは認められ、他方、学校全体として特定の方向に向かう政治的活動を行うことは認められない、と解するべきでしょう。
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