評価と称賛

はてなスターを半月ばかり使ってきて、思ったことをつらつらと書く。
僕ははてなブックマークを気になる情報のクリップとして使っているが、他の方は足跡的に読んだブログエントリならことごとくクリップしたり、あるいは後で読み返すものだけをクリップしたり、使い方はさまざまある。中でも、「記事の内容に共感や同意や称賛の意を表明するためにブックマークをする」という使い方をしている人はけっこう多くいるみたいで。思うに、そのようなブクマの使われ方のうち、称賛のためのブックマークを抜き出して別枠に置くことが、スター機能の意図としてあるんじゃないかと。
はてブソーシャルブックマークである以上、「称賛の意を表明するため」のような使われ方が出てくるのは必然。けれどブックマークはもともとコミュニケーションツールとしては捉えられてこなかったし、さまざまなサイトを後からでも参照できるように個々人がクリップするといった使い方が主流だったと思う。
はてブはコメントがつけられるし引用したダイアリも読めるから、それらの情報を参照するためにはてブを使う人にとっては、賞賛のためだけのブックマークはノイズになる。けれども一方で、賞賛の意を表明する行為自体は、つながることを重視するはてな文化の一端として残しておきたい。その結果として、はてなスターというサービスを導入することで、「称賛ブクマ」を抜き出して、はてブを「参照」方向に精選したかったんじゃなかろうかと感じた。

はてブ指数チェッカーが作成された時、作成者(myrmecoleon)と発案者(min2-fly)が次のようなことを言っている。

はてなブックマークのブクマ数はダイアリーの質(内容の高さ)とは相関していない,という指摘。これは確かにそうです。ブックマーク数を用いた評価はこれを前提に考えないといけないでしょう。
ただ,実はそのことは別にはてブ指数に限ったわけでなく,学術論文でもdisる目的で引用されることは多々あるんですよね。この論文のここがひどいとか,間違ってるとか。まあはてブよりは割合はかなり低いんですが,必ずしも引用数が質と直結してるわけではない。
だから一般に被引用数を評価の数字として使うときは「impact」と言います。被引用数の高い雑誌を表す指標として「impact factor」というのがあるのと同様。おそらく影響力とか存在感などと訳すのが適当だと思います。はてなのブックマーク数についても,これは同様でしょう。
つまり,はてブでの評価における「質」とは,記事の内容の質のことではなく,あくまで(はてなブックマークにおける)存在感である,と考えた方がいいでしょう。つまり論争だろうが,[これはひどい]だろうが,それがはてなブックマーク利用者の関心をわかせたものであるなら「質が高い」とする指標。
この点で,特に上記の意味での質だけでなく,量についても評価するはてブ指数は「存在感」の指標である,とみるのが適当だと思います。ホットエントリでよく見かけるとかそういうの。
はてブ指数への反応に応えて - Myrmecoleon in Paradoxical Library. はてな新館

あと、これもmyrmecoleonさんも言ってるが、「はてブ指数」で出るのはあくまで「impact=影響力的なもの」であって、「quality=品質」ではないんだよね。
これも計量書誌学において「impact」って言葉が良く使われるのと同様で、impactを図る材料として(それをなにで割るかとかなにをかけるかとかさておき)計量書誌学では論文の被引用数をよく用いるわけだが、じゃあ引用されない論文は質が悪いのか、と言えば必ずしもそうとは言えない部分がある。
「はてブ指数」徒然 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

エントリに対するブクマ数の多寡は、エントリの品質を保証しない。それはあくまでブロゴスフィアにおける存在感の大小を計る指標の一つに過ぎない。従来のはてブに加えてはてなスターという機能が出てきたことで、エントリを評価する軸が増えたことを僕は好意的に捉えている。もっとも、はてなスターはあくまで「評価」ではなく「称賛」のための機能であり、1人で複数の星がつけられることからわかるように、曖昧さを残したサービスだけれども。
他人や他人のコンテンツを評価することは存外難しい。それは同時に、評者が周囲から見定められるということでもある。おそらくスター機能は、もっと気軽に、もっとカジュアルに、深く考えないで「称賛」する。そんな世界観を志向しているのだろう。
称賛することにまで評価責任を求められたら身動きが取れなくなるかもしれない。間違った事柄を称賛したって構わない。脊髄反射で星を付けたっていい。褒めることの敷居をもっと低くしたい。何かを褒めることで何かが生まれるかもしれない。はてなスターからはそのような意思を受け取った。留保のない賞賛の肯定を。
(参考リンク)
はてなスターを二週間弱使ってみて。「はてぶ軸」と「はて☆軸」の存在。 - 月がでたでた月がでた
はてブとはてスタの使い分け - 北の大地から送る物欲日記