公営住宅

国が05年、都道府県に対して公営住宅の入居継承資格を厳格化するよう求めた通知を巡り、入居者に不安が広がっている。入居資格は従来、親から子へ継続できたが、通知は「入居機会の公平化のため」に継承権利者を「原則、配偶者のみ」に限定した。しかし、低家賃で住める公営住宅は、収入が少ない母子家庭や障害のある子供を持つ家族も少なくない。親たちは「自分の死後、子供は住む所がなくなってしまう」と訴えている。
「私に何かあったら、娘と孫はどうすればいいの」。東京都渋谷区の都営住宅「笹塚二丁目アパート」に住む木村繁子さん(83)は肩を落とす。
長女房江さん(54)と孫の隆士さん(25)と3人暮らし。房江さんは糖尿病で、毎日4回インスリン注射をしながら週6日、スーパーでパートをこなす。隆士さんは知的障害4度。一時は福祉作業所を利用したが、障害者自立支援法では受け取る工賃より自己負担の方が高額となるため、今は通っていない。
房江さんのパート代や繁子さんの月12万円の年金などで、月収は多くて30万円程度。生活費や月2万円弱かかる房江さんの治療費でほぼ消える。繁子さんは自分が死亡し年金収入がなくなっても、家賃が1万円超の都営住宅なら、娘と孫の2人で何とか暮らしていけると思ってきた。
ところが、国土交通省は05年12月、継承権利者を「原則、現に同居している配偶者」に限るよう都道府県に通知した。これを受け、都は継承制度を改正し、8月25日に施行した。結果、房江さんは継承できなくなった。
通知は、高齢者や障害者など「特に居住の安定を図る必要がある者」には例外的に、配偶者以外への継承を認めるが、判断は都道府県に委ねられている。都の場合、知的障害4度は「軽度」とみなされ、隆士さんは特例の対象外だ。繁子さんは「娘と孫はホームレスになれと言うのでしょうか」と訴える。
こうした例は都営住宅に限らない。鳥取県倉吉市の県営住宅では5月、母子家庭の母親が19歳と17歳の息子2人を残し、がんで他界した。大学浪人中の長男は10月に成人になるため、その後半年以内に兄弟は退去しなければならないという。親族は「同じようなケースが今後、全国で相次ぐのでは」と懸念する。
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20071010k0000e040068000c.html

記事を読むと確かに「これはひどい」と言いたくなる事例だけど、ロジックとしては親が公営住宅に入っているから子供も入居できるとするのはさすがに無理筋でしょう。公営住宅はあくまで低所得者に対するセーフティネットであって、上記のような事例に対しては、「親が入居しているから」ではなく「当人に入居すべき事情があるから」入居するのでなくてはならない。
ただし、ルールの運用を変更することに合理的理由があるのは認めるとしても、今般の社会保障の貧弱さに低所得層が不安を覚えるのは無理もなく、また北九州の生活保護の事案に見られるように地方自治体の福祉政策への信頼は今や低下する一方であり、相当の配慮を必要とすることは注意すべき。記事中に知的障害4度*1の青年が出ているが、これなども医学的に障害の度合いが軽度と判断されても、実際に就労出来てない以上は相応の扶助が必要と考えるのが妥当だろう。ところで都営住宅の申し込み資格を検索してみると、知的障害4度は単身かつ低所得の場合は入居可能のようだ。だったら継承されなくても新規に申し込む事はとりあえず可能ということか。当事者が安心できる形で決着することを望む。

*1:IQであらわすとおおむね50〜75程度