知的障害者の年金を横領

破産手続き中の奈良県広陵町の家具製造販売会社「大橋製作所」(大橋浩三社長)が、知的障害のある従業員10人の障害基礎年金を本人に無断で引き出し、賃金も長年支払っていなかったことがわかった。元従業員と代理人の弁護士が15日に会見して明らかにし、社長も朝日新聞の取材に「借金返済や運転資金に回した」と認めた。弁護士によると、被害総額は2億円にのぼるとみられる。元従業員らは近く横領容疑などで社長らを告訴し、損害賠償請求訴訟も起こす。
弁護士らによると、元従業員は県内外の養護学校などを卒業後、同社に就職した20〜50代の男女で、勤続年数は9年〜30年余。大半は会社の寮の大部屋に住み、家具の組み立てなどをしていた。
今年7月に同社が奈良地裁葛城支部から破産宣告を受け、元従業員らを受け入れた広陵町などに施設を持つ社会福祉法人が預金通帳などを調べたところ、数万円の残高しかないことがわかった。元従業員の障害等級は1級と2級で、障害基礎年金の支給額は1級で年約99万円、2級で約79万円(いずれも07年度)。受給口座の預金通帳や印鑑は会社側が保管し、受給自体を知らない人もいた。勤続年数や県内の最低賃金などをもとに計算すると、年金と賃金を合わせた被害総額は約2億円になるという。
同社は親元を離れた元従業員の食事や日常生活の世話をする一方、賃金を定期的に渡さず、週末に3千円程度を小遣いとして渡したり、正月に約10万円を支給したりしていた。社内で暴行を受けたと話す元従業員もいるという。
同社は71年設立。ソファやいすなどを製造販売し、97年には約5億円の年商があったが、海外製品との価格競争もあって近年は経営が悪化した。倒産時は知的障害者11人のほかにパートら10人ほどが働いていた。
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200710150023.html

経営側が従業員の年金や賃金を企業の運転資金に回す、なんて言うのは当然やってはいけないことであるわけですが、中小企業だと経営者と労働者がほとんど利害を同じくする事例なども散見されるわけで、会社を守るためなら従業員の私的なお金に手をつけるもやむなしという発想は、現実にはまだまだ根強く残っていそうです。上記の件だと、親元を離れて会社が用意した寮に住み、食事や生活の世話も会社が受け持っていたということで、知的障害を持つ労働者がどれだけ自身の状況を把握できていたか、多少の疑問は残ります。障害基礎年金で1級は最重度、2級は中程度だったかと記憶していますが、会社側に対して各従業員に代わって利益の確保を主張する、成年後見人や保佐人のような代理人を選任しておくべきだったのかもしれません。
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全国版には載っていませんが、関西版には社長との一問一答も載っています。

大橋浩三社長の一問一答は次の通り。

 ――元従業員の障害者の通帳から、障害基礎年金などを引き出したのか

 亡くなった先代社長だった父親が元従業員の通帳から金を引き出し、会社の運転資金や借金返済などに使っていた。(04年に)自分が社長になってからは、金の管理は経理に任せており、まだ確認できていない。

 ――週末に渡していたとされる「小遣い」も賃金に含まれるのか

 週末には、例えば散髪に行きたいなどと言われた時に、必要な金を千円、2千円と渡していた。ただ、私が社長になった時はすでに経営は厳しく、賃金は支払えなかったように思う。

 ――なぜ、無断で口座から引き落としたのか

 親元に戻れない障害者がいる。経営が厳しい中でも、彼らの行き場がなくならないために、どうにか会社を続けようと思った。倒産したことも、お金を返していないことも、元従業員の家族に連絡もせず、申し訳ないと思っている。

最後の問答はちょっと考えさせられるところです。障害者が長期にわたって勤務していた場合、会社を退職したのちに身を寄せるような親族はいない可能性は多分にあり、各自治体において受け入れ先を手配するのが筋ですが、それが当人にとって快適かどうかは何とも言えません。会社において形成された疑似家族的なコミュニティの方が居心地が良かった可能性だってあるわけです。
この企業の振る舞いは法的にも倫理的にも悪質であることは確かですが、「親元に戻れない障害者」というフレーズについ反応してしまいました。