介護タクシー代金不正受給事件

滝川市介護タクシー代金不正受給事件について、以下にニュースを3件引用する。

始まりは06年3月だった。滝川市出身で、いったん札幌市に移っていた容疑者夫婦が滝川市に転入。「病気で働けない」などとして生活保護の認定を受けた。
滝川―札幌1往復で30万円前後というタクシー代金の詐取は、転入後すぐに始まったとされる。札幌市の主治医は「疾患は重く、地元ではなく慣れた医師が診る方が良い」「入院ではなく、通院が望ましい」という判断を示したといい、これが請求の根拠にされた。
しかし、道警の調べでは、滝川―札幌間の通院の事実自体がほとんどなかった。夫婦は滝川市内の家とは別に札幌にもマンションを構え、ここから通院していたという。
夫は酸素マスクを離さず、診断の際には倒れそうな様子で激しく体を震わせていたというが、夜は歓楽街・ススキノの物まねパブに足しげく通い、酒も飲んでいたという。妻も、様々な疾患を抱えてストレッチャー付きタクシーを利用したとしながら、実は頻繁に自分で車を運転していたという。夫婦は受給金で覚せい剤や高級車を買ったほか、一部を出入りしていた暴力団に融通していたとみられる。タクシー会社には夫婦側から不正を持ちかけ、金を分け合っていたという。
巨額の支給について、滝川市の幹部は「通院の証明書はあり、少なくとも申請書類に形式上の不備はなかった」「市内の自宅まで出向いても不在だと言われ、面談ができなかった」と述べ、当時としてはやむを得ない判断だったとしている。
しかし、市の幹部は以前から、重ねて忠告を受けていた。市の監査委員だった市議によると、06年秋の時点で高額の請求に気づき、懇談会の場で田村弘市長や副市長らに注意を促した。しかし、市長は「そんなことがあるのかい」などと答えるにとどまったという。
その後、監査委員は07年春に検証報告を作成して「考えられない額で現実離れしている」「金が夫婦側に還流しているのではないか」と指摘した。市の顧問弁護士も同時期に「すぐに打ち切るべきだ」と進言。その後、市はようやく腰を上げて滝川署に相談したが、市として具体的な調査に入ることはなかった。正式に被害届を出した11月16日にも約400万円を振り込んでおり、「弱腰」が目立つ。
市関係者によると、夫婦は過去、市営住宅の家賃を滞納し、市と民事調停になったことがあるという。市は、当初から元暴力団組員であることを把握しており、「見るからに『それ風』で威圧的だった」(市職員)。捜査した札幌地検や道警などには「トラブルが嫌で目を背け続けた疑いがある」「職員の刑事責任は追及できなかったが、納税者への背信行為であることは間違いない」という声がある。
一方、夫婦の通院先の一つ、北海道大学病院(札幌市)は市がつくった検証委員会の調査協力依頼に対し、患者の個人情報がからむとして、院長名で拒否を伝えている。道警幹部の一人は「診断は常識的に言って首をひねる内容だが、捜査でそこまで切り込むことはできなかった」と漏らす。
http://www.asahi.com/national/update/0209/TKY200802090082.html

昨年度、滝川市が交通費を支給したのは60人。その中でも両容疑者の高額さは突出していたという。両容疑者は自宅のほかに、札幌市中央区内で温泉付きの高級マンションを賃借。さらに高級車を乗り回し、高級レストランでの飲食も繰り返していた。
道警はだまし取った生活保護費の多くを、こうした派手な生活につぎ込んでいたとみる一方、一部は片倉容疑者とつながりのあった暴力団に流れ、資金源になっていた可能性が高いとみて慎重に裏付けを進めている。
札幌市の業者によると、介護タクシーの札幌―滝川間の往復料金は通常、3万円程度。「25万円なんて金額はあり得ない。不正に気付かなかったのか」とあきれ返る。
滝川市は当初「職員が自宅を何度も訪問するなど調査は十分に行った。だまされただけだ」と釈明。強まる批判で、ようやく「落ち度はあったかもしれない。もっと早期に気付くべきだった」(居林俊男保健福祉部長)と不備を認める姿勢に。
捜査を担当した道警幹部も「行政のずさんさが付け込まれた結果だ」と話している。
http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20071124-OHT1T00159.htm

生活保護受給者に支給されるタクシー補助制度が悪用され、滝川市が市内の夫婦に約2億4000万円を支給していた問題で、夫婦が通院していた北海道大病院(浅香正博院長)が、市検証委員会(委員長・末松静夫副市長)の調査依頼を断っていたことが分かった。北大病院総務課は「警察が捜査しており、弁護士と相談して個人情報を出すべきではないと判断した」と説明している。
市は夫婦の主治医の診断に基づいてタクシー代を支給していた。検証委は当時の主治医の判断に間違いがなかったか確認するため、昨年12月28日付で北大病院と別の病院に文書で協力を依頼。別の病院では副院長らが面談に応じ、当時の診断などに間違いがなかったことが確認された。
しかし北大病院からは返事がなく、今月9日、病院を訪れ、面談を求めたが断られた。さらに10日付で「協力はいたしかねる」と文書で通知があった。検証委は「協力が得られなかったのは誠に残念」と述べている。
http://mainichi.jp/hokkaido/shakai/news/20080131ddlk01040035000c.html

まず、当該自治体や福祉事務所等の関係者に対しては、その杜撰な処理や甘すぎる給付について当然批判されるべきだろう。以前にブックマークコメントで書いたように、こういう事例が生活保護に対する信頼を失墜させるものだ。一方で上記引用記事を読むと、自治体にしても病院にしても、どうも暴力団との間でトラブルになることを恐れて弱腰になった可能性も推察される。この点についてはいささか同情する。2007年4月の長崎市長射殺事件以来、行政対象暴力についてはだんだんと知られるようになってきたが、現場ではまだまだ個々の職員に対するケアは十分ではないようだ。警察と連携するなどして、暴力団が絡むような事案については厳しい態度を示せるようにしておくべきだろう。実際、年金給付については警察が協力している。

年金記録確認第三者委員会の職員が不給付決定をした際に、暴力団員風の男から脅されるなどの被害が出ているとして、警察庁は29日、委員会に警察官計7人を派遣し、暴力団による「行政対象暴力」への対応指導に乗り出した。
三者委員会は、年金記録や領収書など証拠がない人への年金給付の可否を決める組織。昨年7月に受け付けを開始して以降、全国に設置された地方第三者委員会で数件の被害が報告された。同委では「何かが起きてからでは遅い」と判断し、警察官の派遣を要請。これを受けて同庁は、中央委員会に1人、関東地方に3人、近畿地方に3人の警察官を派遣し、暴力団による不当要求への対処方法の指導を始めた。
同庁はまた、同日付で全国の警察本部に対し、悪質な場合には事件化し、被害を受ける恐れがある職員を保護するよう指示した。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080129-OYT1T00601.htm

生活保護を通じて暴力団にカネが流れているのではないかという話は、噂レベルではしょっちゅう聞く。一方で、浜松市役所の前で老人が餓死するという衝撃的な事例が話題になったことは記憶に新しい。本当に困窮している国民に適正な給付が行われるよう、策を講じる必要があるだろう。もちろんそれは現場に責任を押し付けることではなく、判断が歪められることの無いように現場をバックアップすべし、という意味である。