「不当解雇」ではないでしょう

dankogai氏の記事に対して、hachimitu氏から疑問が呈されています。

404 Blog Not Found:私はこうしてクビを切りました

http://hachimitu.jp/blog/archives/2008/03/01224416.html

2人ともわかってて書いているような気もしますが、「解雇」というのは使用者が一方的に雇用契約を解除することを意味するのであり、上記のdan氏の場合は労働者側への説得ののち「辞めます」と言わせているわけだから、解雇ではなく単なる退職勧告でしょう。

弾:
あなたは解雇を選ぶことも出来ます。その場合当然法にのっとり、あなたは解雇予告手当を支給された上、すぐに失業手当の給付を受けることが出来る。
自ら辞めることも出来ます。この場合、我が社にはあなたが解雇された場合に受け取るより多い額の手当を支払う用意があります。どうしますか?

退職の形態には自己都合退職と会社都合退職がありますが、上記のように退職金を割り増ししているところから見ても、会社都合退職として処理したのでしょう。その方が辞める側にとってもメリットがあります。というのは、失業した場合は雇用保険から失業給付が出ますけど、自己都合退職では3ヶ月間の給付制限、つまり給付されない期間が出るわけですね。「結婚するので会社を辞めた」というようなケースがこれに当たります。一方、会社都合退職の場合は給付制限がなく、すみやかに受給できます。*1
会社都合退職になるような事例はいろいろありますが、セクハラやパワハラなどにより労働者本人がその職場に就業し続ける意欲を失った場合は、自己都合とは言えず会社都合となるでしょう。あるいは就業前に示されていた採用条件と実際の労働環境が著しく異なっており、それにより退職を選んだ場合もそうですね。完全週休2日と謳っておきながら実際には1か月休日なしとか、ブラックな企業でよく聞く話です。いずれにせよ、自己都合退職よりも会社都合退職の方が労働者にとっては得なので、いわゆる肩たたきで退職を勧める場合でも、会社都合退職として処理することは多いそうです。

かつて「解雇」が法律的に詳細定義されていない時代には使用者の都合による安易な契約解除(解雇もしくは不当解雇)も多く存在した。不況時にはそれが激化したことなどから、近年の労働基準法の改正により、「解雇ルール」が明文化され、使用者の安易な解雇ができなくなった。したがって、労働者の契約を終了させるのにも相当な理由が必要となった。また解雇には労働者の意思を挟み込む余地がないので、解雇された労働者が「不当解雇」と言うことで争い(主に訴訟や公的機関での紛争)が生じる可能性も充分にあり、使用者にとっても不安定な状況におかれてしまう。さらには使用者、労働者とも、膨大な時間と費用の浪費を余儀なくされる。そこで、それに替わる使用者起因による労働契約解除の効果として、法律的な位置付けはされていないが、退職勧奨や早期優遇退職などの「働きかけに応じる」という行為が使用者及び(退職を考えている)労働者の双方にとってメリットがあるということで急増している。  それが労働者の退職時の手当て(退職金)や離職後の失業給付などにおいて手厚い処遇をされ、使用者も解雇をすることによる外部からの風当たりや労働者からの軋轢(あつれき)を避けられることにもなり、この言葉が社会常識化した慣例用語とも言える。
会社都合退職 - Wikipedia

もちろん、いったん雇った人間を適切に配置・育成できず、自ら退職するように「追い込んだ」という部分を持って批判することもできないではないですし、dan氏のエントリのコメント欄にもそのような意見は出ていますが、水の合わない場所にむりやり押し込むようなことはやめた方がよいでしょう。雇用した労働者をどのように処遇したかという振る舞いについても企業および経営陣は暗黙のうちに評価されているのであって、「あの会社は内部での人材育成に熱心でない」という世評でも立てば、その企業はしかるべき人材しか手に入らないことになります。大切なのは、個々の労働者が会社を辞めた場合に別の会社で速やかに職にありつけること、すなわち再就職が容易な労働市場の確立であって、いたずらに解雇規制を強めることが必ずしも労働者の保護に結びつくとは限りません。このあたり、正規雇用者に対する保護が強すぎるために労働バッファとして非正規雇用者が使い捨てられるハメになる、というような見方もあり、労働者の安定性と労働市場の柔軟性をどう両立させるかは、非常に難しい課題とは言えるでしょう。
おっと、会社都合退職のわかりやすい事例をもう一つ。「事業所の移転により、通勤することが困難となったため離職した者」も、会社都合退職として扱うことができます。ということは、つい最近どこぞの「へんな会社」が東京から京都に移転したことが話題になりましたが、それで退職した人はみんな会社都合退職ということですね。

*1:実際には離職票を受け取った後にいろいろと手続きがあるので、受給までに3〜4週間はかかります。