責任の分散が事故の遠因では?

ふじみ野市で起こったプール事故ですが、1日経っていろいろ情報が出てきました。

埼玉県ふじみ野市営プールで戸丸瑛梨香(えりか)ちゃん(7)が吸水口に吸い込まれ死亡した事故で、プールの管理を委託されていたビルメンテナンス会社「太陽管財」=さいたま市北区=が、プールに社員を派遣せず、監視員の募集や教育も下請けに丸投げしていたことが明らかになった。ふじみ野市との委託契約約款では、下請けへの再委託には市の承諾が必要だが、同社は市に申請していなかった。

 斉藤敏雄社長(37)の1日の会見などによると、92年に初めて同市とプールの業務委託契約を結び、契約が取れた年は、さいたま市見沼区の業者に再委託し、03年以降は4年連続で再委託していた。太陽管財が作った「安全管理マニュアル」を下請け業者が修正して使用。業者が派遣した現場責任者がマニュアルを持ち、内容は口頭でプールの監視員に伝えていたという。

 事故は、針金だけで固定された吸水口のふたが外れて発生したが、斉藤社長は「さく(ふた)が外れる想定はしていなかった。今回のケースに関する緊急対応マニュアルはなかった」と話した。

 一方、ふじみ野市もこの日会見し、北村政夫助役は「再委託の届け出はなかった。契約約款に明らかに違反しており、大変遺憾。至急調査したい」と述べた。

 同市によると、太陽管財はオープン前の7月5、7日に流水プールを安全点検。A4判2枚の管理作業報告書を市に提出したが、清掃のほかは起流ポンプ点検だけで、特記事項はなかった。池本敏男教育次長は「当然、ボルトなども点検しているはず。書いてないのは問題がなかったのだろう」と述べた。【浅野翔太郎、小泉大士】

 ◇自治体職員の点検、毎日から2日に1度に減る

 また、旧上福岡市と旧大井町が合併してふじみ野市になった今シーズンから、このプールの自治体職員による点検が、昨年までの毎日から、2日に1度に減っていたことが分かった。

 昨年10月の合併前は旧大井町の町民プールで、当時は町職員が毎日、管理会社の現場責任者からの聞き取り、全体の見回りなどをしていたという。合併後は2日に1回になり、事故前は7月29、30日が土、日曜だったため、直近の点検は同28日だった。ふじみ野市は点検が減った理由を「合併で管理施設が倍増し、職員の手が回らなくなった」と説明している。

 プールには事故当時、現場責任者と看護師、監視員13人の計15人がいたが、監視員はほとんど高校生のアルバイトだった。【山崎征克、小泉大士】
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060802k0000m040123000c.html

まったく痛ましい限りです。構図としては、役所が業者に管理を委託し、その業者は下請けに再委託、そして下請け業者は高校生アルバイトで現場の人員をまかなったと。この無責任体制こそが事故の要因だったんじゃないでしょうか。
夏場のプール事故自体は昔からよくありましたよね。でも昔と違うのは、役所も企業もコストダウンへの激しいプレッシャーがあって、管理・保安人員を減らしたり質を下げざるを得なくなっている。それどころか、最初にコスト計算をするときに、何もかも上手くいっていてトラブルが起こらないことが前提になっている。だから、こうして万が一の事故やヒューマンエラーが起きても、それに対応することが出来ないのでしょう。どこのサイトだったか、「近頃の高校生は機転が利かない」なんてコメントしていたけれど、咄嗟のときに高校生に臨機応変な対応を求めるのは無理があると思う。僕はその点では彼らを責められない。
プールに限らず自治体の施設は、最近はどんどん業者が管理するようになってきています。公共施設の管理を業者に任せることについては議論が分かれるところですが、今回はさらに多重下請という問題が絡んでいます。設置主体と現場の間に入るものが多ければ多いほど、責任も分散していくものでしょう。この件については役所に重過失はなく、したがって過失責任を負う部分は非常に少ないと考えます。結果責任は別ですが。
この事件から教訓とすべきことは、多重下請による責任の分散の危険性です。中間搾取が多いために、コストを切り詰めなければならず、経験の浅い高校生バイトに現場を任せることになってしまった。さらに、役所と現場の間に請負業者とその下請が絡んだため、個々の人間が感じる責任が軽くなり、事故が発生しやすくなってしまったと。外れた給水口のふたを客が見付けてバイトの監視員に渡したとき、監視員はそれが何のふたなのか分からなかったそうです。無理もないでしょう。彼らの仕事は監視であって施設の管理ではありません。ましてバイトの高校生では、それが重大な事件につながることをリアルに想像することは出来ないと思います。いや高校生をバカにしているのではなくて、責任感がなければそんな風に頭を働かせることも出来ないのではということです。
こういう事故を防ぎたいのなら、まず設置者と現場の間に入るものを少なくして、スタッフにきちんと責任を負わせること。そして、安全確保のためにはコストがかかることを認識して、そのために予算を割くことが必要です。お金はかかるけどしょうがないじゃないですか。安全はタダではないのですから。