代理母出産に関する高裁判決

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060930it01.htm
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/kyousei_news/20061002ik0a.htm
高田延彦向井亜紀夫妻が、アメリカ人女性に代理母出産を依頼して生まれた双子の子供について、出生届を受理するよう品川区役所に求めた裁判の判決が下った。東京高裁は不受理処分の取り消しを品川区に命じた。画期的というか驚くべき判決だと思う。
向井さんは子宮ガンのために子宮を全摘出しており、また精子卵子とも夫婦のものであるから、代理母のお腹を借りたとしても生まれた子供が夫妻の子であることは特に異論無く受け入れられるだろう。一方で、出生届を出すのに遺伝子上の母親の名前を記載するのは、感情的にはともかく法的にはグレーゾーンではないだろうか。というのは、出生届は赤子が母体から出たという事実を確定するための届出であり、ここには代理母の名を記すのが妥当であると思うからだ。出産した代理母と産まれた子供の間には遺伝子的なつながりは無いが、出生届は出産に関する事実を記すのであるから、代理母の名前のない出生届を受理してしまうと、公正証書原本不実記載などの罪に問われかねない。出産が不可能な人間が出産したことになってしまうわけだから、この点に違和感を持つ人間は少なくないと思う。
今回のケースについて言うならば、夫妻は生まれた双子を養子縁組することで自身の子供となるよう届けるのが妥当だったのではないか。妊娠・出産の事実が無いのに出生届が出せるということは、ちょっと飛躍すれば同性婚カップルが実子を持つことが可能となってしまう。裁判所は司法の番人なのであるから、現行の法律と現実の医療技術が乖離した状態にあるならば、世間から非情と思われようとも現行の法規範を優先して判決を下すべきではなかったかと思う。法手続きというものはそう簡単に飛び越えてよいものではないはずだ。
ところで、マスコミはこの件について、夫妻を祝福するスタンスでの報道が目に付いた。アメリカでは、代理母が子供の引渡しを拒否したベビーM事件や、代理母が出産後に子供の親権を求めて提訴したカルバート対ジョンソン事件といった先例があるわけだが、そういった論点に踏み込まないのはどうしたもんかな。
(参考)