高齢者は医者になるべきでないのか

筆記試験で合格者平均点を上回りながら、面接で高齢を理由に不合格にされたとして、群馬大医学部を受験した東京都目黒区、主婦佐藤薫さん(56)が同大を相手取り、入学許可を求めた行政訴訟の判決が27日、前橋地裁であった。
松丸伸一郎裁判長は「年齢により差別されたことが明白とは認められない」などと述べ、原告の請求を棄却した。
同大が「医師には知力・体力・気力が必要」などと説明していたことについては、合理性があるとした。
訴えによると、佐藤さんは同大医学部医学科の05年度の入試で不合格となったが、大学に得点を開示請求したところ、筆記試験のセンター試験と2次試験の合計点は合格者平均より10点以上高かった。
同大に電話で問い合わせた際、入学事務担当者から「個人的な見解」と前置きされた上で、年齢が理由と受け取れる説明を受けたと主張していた。
判決は「医学・医療に携わる人材としてふさわしい人格と適性があるかは、医療に携わってきた面接官の最終的な判断に委ねるのが適当で、裁判所の審理に適さない」とし、「面接の状況を認定する十分な証拠もない」と判断した。
佐藤さんは「残念の一言。今も医師になりたいという思いがある。1年4か月、判決を待っていたので、今後のことはこれから考えたい。控訴についても相談して決めたい」と述べた。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20061027i102.htm

提訴したときのニュースを見て、ウェブ上でもかなり話題になったことを今でも覚えています。もう1年以上もたったのですね。
スジ論から言えば、群馬大学はアドミッションポリシーにおいて年齢で受験生を弾くことを明記しておらず、この主婦の入学を「年齢を理由に」拒むことは無理があります。一方で大学側は、弾いた理由を公式には明らかにしていないようなので、そこはちょっと突っ込みにくいところ。
医学部受験生が身近にいる人には有名な話ですが、「○○大学は多浪生・高齢受験生を落とす」という噂はしばしば聞かれるところで、群馬大は特に厳しいことで有名です。私大にも多いですよね。旧帝大あたりは点数だけで取るところもあるとは聞きますけど。
医者を育てるのには非常に多くのリソースを必要としており、また卒業後も長く研修を積まなくては実務に堪えないと言われています。最近、医学部に行った友人と飲む機会があったのですが、「20代まではまだ見習い、30過ぎでようやく半人前」と言っておりました。今回の主婦の場合、学部を卒業して研修を終えたらもう70歳に近くなっています。医者1人養成するのに1億円近いリソースを投入するとも言われる中、高齢者の受験に厳しくなるのはしょうがないことなのかなとも思います。医者の激務にその高齢で耐えられるかは不安がありますし、医学部の目的は学生を卒業させるだけでなく、良い医者を長く実務に従事させることで、国民の幸福を実現させることにあるのですから。大変な努力を積んだこの主婦には非常に気の毒な話ではあるけど、納税者の観点からすると若い人を鍛えるほうがコストに見合うとも感じられますし、判断しづらいところです。
医学部は社会的に医師を養成することを求められており、職業訓練所的色彩の強い学部です。これが文学部や経済学部だと入学を認められていたでしょう。法律系の場合、学問を行う法学部の他に、実務者を養成するロースクールもあります。ロースクールだったら、例えば司法試験に合格する意思のない受験生なんかを弾くのは妥当なように思いますが、医学部は研究も臨床も一緒くたなので難しいですよね。医者にならなくとも医学を学ぶことはできますし、医療に携わることもできるので。ともあれ各大学の医学部は、高齢者が受験を求めた場合にどうするのかをきちんと取り決め、明らかにしておくのが妥当でしょう。高齢者を医師として養成することの是非はともかくとしても、選抜方法や合格基準は明記しておくべきであり、ダメと思ったなら受験そのものを認めないということもできるのですから。