日本食「認証」制度は排除も規制も意味しないのでは

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ニュースそのものよりも、否定的なブックマークコメントがずいぶん多かったことに驚きました。これは、デタラメな日本料理を出す店が多いから真っ当な店に対してお墨付きを与えるだけのものであり、はじめから日本食モドキを売りにする店はこれまで同様その料理を出せば良いのだと思うのですが。
例えば明太子スパゲッティは正統なイタリア料理とは呼べないでしょうし、福岡にあるたくさんのラーメン屋は正統な中華料理店とは認められないでしょう。けれども明太子スパゲッティは十分に日本人の舌に馴染みましたし、ラーメンは日本の国民食と呼ばれるまでに定着しました。それは僕たちが美味しいものを貪欲に求めた結果であって、食文化の正統や異端を考えてのことではありません。食べるときにはそれでよいのです。僕たちは文化史家でも料理研究家でもないですから。
個人個人は欲望に従ってそれぞれに好きなものを食べればよいでしょうが、海外に出ると、日本では出さないような魚の刺身とか、ネットリドロドロの味噌汁を出すようなとんでもない店もあります。そういう店で出されている日本食とは到底呼べないような料理を食べて、「これが日本の味か」と誤解されるのは好ましくないわけで、余計なトラブルを防ぐためにも歓迎したい動きですね。
食文化というのは旨いまずいとは別の次元の話です。前述のように消費者としての我々は好きなものを好きなように食べますから、エセ日本食を出す店も別にそのまま営業すればよいでしょう。日本料理店として勝負したければ真っ当な日本食を出してお墨付きをもらえるでしょうし、そうしたくなければお墨付きがなくてもその店にマッチする客が来るでしょう。けれど、過去には日本料理店を名乗る店が淡水魚の刺身を出して食中毒を起こした事件などもあったわけで、そういうところで日本食についての誤った理解が広まるのは嫌な話です。別に政府がやろうが観光協会がやろうがそれはどうでもいいのですが、まるで特定の店を排除・規制する制度であるかのように考えるのは過剰反応ですよ。日本食をアレンジして現地の人間に受け入れられたらそれはそれで結構ですが、何でもかんでも文化を拡大解釈していたら、むしろ文化の歴史的蓄積が無意味になってしまうんじゃないですかね。

But the mentality in Japan also echoes a similar movement by several nations -- including Italy and Thailand -- now offering guidelines and reward programs to restaurants abroad to regain a measure of control over their increasingly internationalized cuisines.
Putting the Bite On Pseudo Sushi And Other Insults

さて、上は元になったとされるワシントンポストの記事。イタリアやタイでも同様にレストランに対するガイドライン作りが行われている、みたいな事が書いてあると思うんですが、これだと「米メディア猛反発」という見出しもおかしいような。意図的誤訳?
(追記)例えばインド政府が「近頃、インド料理専門店を名乗りながらカレーうどんしか出さない店があるが、カレーうどんはインド料理ではないので、真っ当なインド料理を出す店に対して政府が証明書を発行する」と言った場合、別に僕らは反感を覚えないと思うんですよ。カレーうどんが食べたければそれを出す店に行くし、本格的なインド料理が食べたければそういう店を探す。政府の認証があればその判断の助けになるというだけ。今はアレンジやサンプリングが容易ですから、オーソドックスを保つということにも多少は敏感であって欲しい気がします。亜種や変種は正統と共存しうると思いますから。