戸籍は重要という話

市役所に長男の出生届を提出したら戸籍に「死亡」と書かれ、著しい精神的苦痛を受けたとして、奈良市在住の両親と長男が27日、同市に100万円の損害賠償を求める訴えを奈良地裁に起こした。市は「戸籍を電算化し、本来の状態に戻す」との約束文を両親に渡しながら、放置していた。原告側は「一連の対応はその場しのぎで、不法行為にあたる」と指摘している。
訴状などによると、長男は90年6月に生まれ、父親(43)が同市役所に出生届を提出。02年1月、長男の戸籍を確認したところ、生まれた日付で「奈良市で死亡」と記載されていたのに気づいた。市は直後に修正したが、「再製」の文字が残り、不自然な戸籍になったという。
http://www.asahi.com/national/update/1226/OSK200612260068.html

何とも間抜けなミスですねえ。文書の引継ぎがないあたり誠意ある対応とはとても思えませんが、訴えられたから誠意が湧いてきたのかと邪推したくなります。
戸籍の処理のミスが重大なのは、いったん記述した事項の再製、つまり間違った部分を判らないように修正することができないので、ずっと変な記述が残ってしまうことにあります。就職や結婚、あるいは免許取得や保険加入など、数は少ないけれども戸籍と関わる人生の節目は確かにあります。親の気持ちとしては当然そういう場面で害を被る可能性を考えるのは当然で、しかも必要とするのは大抵重大な場面ですから、心配なところでしょう。これから戸籍を電算化するようですが、予算もまだ獲得していないとなると電算化の完了は何年か後になるでしょうね。ちなみに電算化後も、改製原戸籍という名前で100年は保存することになっているはず。

生まれて2年たつのに戸籍に登録されていない女の子がいる。女児は母親(23)の離婚成立から226日後に誕生、離婚から300日以内に誕生した子は「前夫の子」とする民法の規定があるからだ。「前夫の戸籍に」とする役所に対し、父親(24)は「わが子は自分の戸籍に」と主張する。女児はこのままでは保育園や学校にも通えない。健康保険が適用されないため、父親は医療費の全額負担を強いられている。
父親と母親は03年10月末に知り合い、翌月から同居を始めた。父親はその後、母親に夫がいて離婚が成立していないと知った。04年5月17日に離婚が成立し、同12月24日に新たに婚姻届を提出。5日後に女児が生まれた。当時住んでいた埼玉県蕨市役所に出生届を出したが、民法の規定を理由に受理されなかったという。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20061224k0000m040080000c.html

こちらは何とも。先に役所の対応を弁護しておくと、法律に基づくかぎり前夫の子と推定されるのは当然なので、形式的に前夫の戸籍に入った上で訴訟を起こして実父の子であることを確認するなどして、親子関係を確定させるのが一般論としては妥当でしょう。こういう場合は前夫も争わない例が多いそうですし。
実父の方は「自分の娘を一時的にでも他人の戸籍に入れることは納得がいかないし、前夫とはかかわりを持ちたくない」と話しているようですが、結婚しないまま子供をもうけるのは現状ではリスクある行為ですから、それは仕方ないのでは。まあ最も問題なのは、子供の母親が子供を置いて失踪していることにあるのですが。前夫に対して訴訟するにしても、親子関係不存在確認ということであれば母親と前夫の問題なので、実父は関係できないはず*1。つまり訴訟しようにも訴訟を起こす当人がいないので、手詰まりになるわけです。DNA鑑定なら母親の親族がいれば可能かもしれませんが。
この事例を解決する方法としては、おそらく区役所の提案に従うのが最も簡単です。記事中で二宮周平教授が「上申書を出せば」と言っていますが、ことは男女の関係ですし、前夫と母親が接点がなかったかどうかを事後に証明するのはなかなか困難な気がします。それに、前夫を全く介在させずに前夫との親子関係を消除するのもまずいでしょう。実父が折れるのが子の福祉を考えても妥当ではないでしょうか。
ところでこのニュースに触れたBBSだか日記だかで「戸籍なんかどうでもいいじゃねえか」というような記述があったんですけど、原則として戸籍がないと住民票が作れないし、いろいろな行政サービスを受けるのに戸籍がなくては認められませんから、それは暴論でしょう。というか、戸籍なしでも行政サービスを受けられるということになると、国民が戸籍を届け出るインセンティブが働かないので、行政コストが次第に跳ね上がると思います。
(当方の回線トラブルにより、このエントリは28日朝にアップしております。)

*1:理屈としては子供が前夫を訴えるもので、実際には子供の法定代理人として母親が前夫を訴えるということ