医療業界は彼岸なのか

イムリーなねたではないのだけど、僕の住む練馬区では4月から中学生以上の医療費の自己負担がタダになった。それまでの「小学生までタダ」も結構なインパクトだったけど、ついにそれが中学生まで行ったというわけだ。
自分の子供時代に病院に通った場面を思い出すと、この「医療費自己負担タダ」というのは、正直どこの国の話か、ユートピアかとさえ思えてくる。まあ、財源は税収の多い自治体ならそれほどの負担ではないのかもしれない。驚きどころとしては他にも、よくロジが回るなということもある。カルテとか処方箋で一件一件個別に紙が残ることの威力を見せ付けられる思いだ。話はずれるが、消費税もインボイス式にしとくべきだったよな、ってことだ。
一方では、何だか医療という分野にだけ突出して手厚い感もなくはない。もちろん、重病・重傷の子を抱える家庭の負担を救済するという趣旨は理解できるが、医者にかかること全般となるともっと軽い、カゼとかケガもタダになるのだ。何もそこまで、と思うし、そこまでするくらいならもっと他のことにとも思う。
http://d.hatena.ne.jp/kazu-ct/20070511/1178852681

医者にかかりやすくなる、というのは患者および患者予備軍であるところの我々庶民としてはありがたいこと。けれども、これでは医師側の負担は重くなるばかりだなあ、とも思う。
いわゆる「医療崩壊」現象が進行する要因の一つとして、医師の過重労働が挙げられるが、それはざっくり言うと医者が来てほしくないのに患者が来るということだ。普通にさばいていたのではさばき切れないくらい大量の患者が受診するから、医師の労働量が想定以上に増大する。特に高齢者医療や小児医療では、行政は価格を下げようとするばかりで、受診しやすくなる方向にしか改革をしていない。医療費を抑制する以上は勤務医を増やすことは難しいから、患者の増大はそのまま労働量の増大になってしまう。
仮に診療報酬を上げたとしても、患者の受診動向が変わらない限りは1人の医師が膨大な患者の診療に当たる形は変わらないし、医療費も跳ね上がるばかりだろう。たぶん必要なのは、患者の負担割合を上げたり、海外のようにジェネラルプラクティショナーを受診しないと専門医の診療を受けられないといった、「患者が受診しにくくなる」ような改革なのであろう。ただしこれは一筋縄ではいかない。患者の医療へのアクセスを制限するような改革は、いくら医療業界が訴えても世論がそれを受け入れづらいからだ。
医療行政は政治家に従い、政治家は民意に従う以上、社会通念が変化しなくては状況も改善されない。一庶民に過ぎない自分には世論に影響を与えるようなことはできないけれども、日々健康を保つとか、高次医療機関ではなく市井の医療機関を利用する、というくらいのことは意識して生活するようにしている。医療崩壊は「向こう岸」の問題とは思ってないし、医師の負担を軽くすることはいずれ僕らの社会にとってプラスになるものだろう。