図書館はあなたの家ではありません

現場を脇においたような意見が多くてゲンナリする。今に始まったことでもないが。

  • 生存がかかっているホームレスの対応ってライブラリアンにできるの?

できません。ライブラリアンは医療や福祉の専門家ではありません。行政の担当セクションに連絡通報した段階で、するべきことは尽きています。もちろん個人的に勉強して何がしかの知識を持っているスタッフがいる可能性はありますが、組織として期待するのは無理です。ましてや、カウンターパートは派遣などのいわゆる非正規雇用のスタッフが多く、手が回らないでしょう。
ありうる対応策としては、専門家が図書館に常駐もしくは高い頻度で巡回することでホームレスの保護に当たる、というあたりが限度でしょうか。図書館は、情報の案内は出来ても、人生の案内は出来ません。シェルターにもなれません。

  • 図書館の目的外利用って追い出されるの?

館内が非常に混雑していたとき、携帯ゲーム機で遊んでいた来館者が帰されていた場面を見たことはあります。一方で、「水際作戦をかいくぐって生活保護をゲットするべく勉強したい」という利用者が来た場合、それがホームレスと思しき利用者であっても、追い出されることはありません。あきらかに図書館を利用するべく来館した利用者ですからね。そういう人を手ぶらで帰したら、ライブラリアンの名折れです。残席に余裕が無ければ、昼寝しているサラリーマンあたりにお帰りいただいてでも、サービスに当たるでしょう。
目的外利用のユーザーが追い出されるのは、目的内利用のユーザーを妨げる場合の、更にその中でも一部かと思いますが、実際には目的外利用を厳しく見定めることは難しいです。

  • ホームレスって図書館が好きだから集まってるんだよね!誇らしいよね!

冗談言うな(泣)。博物館や美術館などの他の文化施設社会教育施設に比べ、入館に対価を取られず、座席数に余裕があり、新聞や雑誌など手軽な娯楽が豊富で、エアコンが効いており、要するにコストパフォーマンスが高いからですよ。図書館本来の機能を求めて訪れている人は少数です。
もちろん、「他所が排除しても我々は排除しない」という点に図書館の気概をみるという理解も可能ではありますが、図書館そのものが行政内部のヒエラルキーにおいて低い地位にある中、いつまでも「高楊枝」を気取ってはいられないでしょうね。
念のため言っておくと、非正規雇用のスタッフを首切りして特にホームレス対応の予算をひねり出す、という類のソリューションには賛成いたしません。

  • じゃあ図書館の手は真っ白なの?

いいえ、図書館には迷惑利用者を嫌悪する明確な理由があります。
第一に、資料および設備の汚損の問題です。前述のように図書館に割り当てられるリソースは削減される一方であり、それに伴って現場では、資料や設備の汚損には非常に神経質になっている面があります。ゆえにホームレスに限らず、資料を乱暴に扱う利用者には注意を促していますし、ひどく酔っ払って入館して来た人などは書架で嘔吐する前にトイレに連れて行かねばなりませんので、緊張が走ります。カーペットやソファって高いからね。カウンターに「栓抜きある?」と尋ねた利用者は、都市伝説ではありません。
第二に、業績評価の問題です。行政府全体の予算が減少する中、図書館もまた「効率的」な運営に躍起になっています。ユーザーからのマイナス評価に怯えています。運営に手落ちがあれば、館の予算は減らされ、もしくはスタッフの賃金が減らされたり人員定数が削られる遠因になります。あるいは館そのものの廃止も視野に入ってくるでしょう。入館者数や貸出冊数の多寡は、図書館を評価する指標として機能しています。不快を感じた利用者の利用頻度が落ちるのは現実です。現場には、クレームを即座に処理し、ユーザーのアメニティを追求する動機があります。自分の身を守るために。


伊達に「知のセーフティネット」なんて看板を掲げているわけじゃありませんで、あくまで情報ナビゲータとしての機能に限っても、図書館には貧困者を支援するポテンシャルがあると思っています。意欲も、力量も。しかし、図書館にそれだけのリソ−スを与えないのは、そして図書館の地位をその程度に低からしめているのは、何よりもまず市民の社会的合意としてそれを志向しているからでしょう。当ダイアリでは重ねて書いておりますが、世の物事を鳥瞰的に認識するには限度があり、図書館とて眼前の状況をサバイブするべく、部分最適を積み重ねて現状に至ったものであると理解しています。「近代市民社会において当事者でないものなどいない」ということであるのなら、社会的要請として図書館の地位を高めてください。図書館に課すべきタスクを規定してください。そして課されるタスクに見合ったリソースを提供してください。
図書館はあなたの家ではありません。しかし、図書館のあるじはあなたです。