保育士の自殺

 激務でうつ状態になって保育士を退職し、1カ月後に自殺した岡村牧子さん(当時21歳)の父昭さん(70)=神戸市=が、国相手に労災認定を求めた訴訟で、東京地裁難波孝一裁判長)は4日、過労自殺と認め、原告勝訴の判決を言い渡した。厚生労働省によると、在職中に発症した精神障害の退職後の労災認定は数例あるが、退職後の自殺の認定は「聞いたことがない」という。
 判決によると、牧子さんは短大卒業後の93年1月、兵庫県加古川市の無認可保育園に就職。2歳児18人を担当し、連日10〜11時間勤務した。翌月に新年度から新人5人を指導する責任者を命じられ、自宅残業や休日出勤が増えた。3月末に精神障害と診断されて入院し退職。自宅療養中の4月末、自室で自殺した。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20060905k0000m040040000c.html

僕の母親も保育士をしているので、このニュースは他人事とは思えない。
現状、一般の会社と同様に保育士の世界でも人員定数削減は進んでおり、正規のスタッフを減らす代わりに嘱託・契約職員等の非正規職員によって子供たちを見ている。経験で劣る若いスタッフが多いと、どうしてもベテラン職員に頼ることになるが、この自殺した保育士は採用されてまもなく他のスタッフを指導する立場になったわけで、その心労ははかり知れない。本来は彼女こそが、ベテラン保育士について現場で研鑽を積むべきであったのに。
2歳児18人を1人で担当と言うのも無茶な話だ。産科医や学校教師の問題でしばしば語られるのと同様、保育士業界においても親からのプレッシャーは非常に強い。また、子供は家庭環境も成長の度合いもそれぞれ違っており、ほんの2〜3人預かるだけでも大変な仕事だ。若く経験のない保育士が18人もの子供を預かり、その総ての親を相手に子供の成長について情報交換を行い、しかも後輩の指導まで任せられるとは。大変なストレスを感じていたことだろう。あらためてお悔やみを申し上げる。
ごく単純な話だが、職場において経験豊かなベテランの割合を増やすことで若手は経験を積みやすくなるし、スタッフの総数を増やすことで1人あたりにかかる負担は減らすことができる。もちろん人員増はコストがかかることだが、もしも社会が少子化や教育の問題を真剣に考えているのなら、出産や教育だけでなく、その間にある「保育」の時期においてもリソースを費やすことを許すべきだと思う。
なお、児童福祉施設最低基準に基づくならば、「保育士の数は、乳児おおむね三人につき一人以上、満一歳以上満三歳に満たない幼児おおむね六人につき一人以上、満三歳以上満四歳に満たない幼児おおむね二十人につき一人以上、満四歳以上の幼児おおむね三十人につき一人以上」と定められている。果たしてこれが適切な基準であるかどうかは、より広範な議論が必要だろう。他の種類の施設や制度においてそうであるように、保育園でもそれらの基準は、満たせばそれでおしまいの指標として機能しているからである。
(参考)http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23F03601000063.html